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柚木麻子さん『BUTTER』が、世界で話題になっています。イギリスで26万部超、アメリカで10万部超のベストセラーとなっており、特にイギリスでの評価が高い。2024 Books Are My Bag Readers Awardの「Breakthrough award category」、「Waterstones Book of the Year 2024」に続き、「The British Book Awards 2025」Debut Fiction部門の受賞で3冠を達成したそう。イギリスでは40万部、アメリカでは10万部を超えるベストセラーとなり、現在では36カ国での翻訳が決定しているそうです。
海外ではアジア系の作家が最近ブームになっているというのは聞いていましたし、SNSで海外の読書通の投稿等で、この派手な黄色の表紙の本をよく見かけ、気になっていたのですが、そんなに話題なら読んでみようと遂に手に取りました(和書)。
色々なところであらすじは紹介されていると思うのですが、端的に言うと婚活詐欺師であり殺人犯として三人の男性の殺害容疑で逮捕された女、梶井真奈子を取材する女性記者が、梶井の独占インタビューを取るために帆走する話なのですが、ジェンダー観、ルッキズム、社会にはびこる「こうあるべき」像を前に「自分の適量」を探し、生き方を見つけるという内容です。
梶井のモデルは実在している木嶋香苗死刑囚。あくまで実際の事件をヒントにしたフィクションですが、実際の事件をリアルタイムのニュースで見たことがある私は、どこからがフィクションなんだろうと気になりました。色々調べてみましたが、木嶋香苗死刑囚はこのBUTTERの刊行後著しい不快感を示しているらしく、著者とも会ったことがないということなので、着想のみ実際の事件で後はフィクションと考えるのがよさそうです。
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『BUTTER』というタイトル通り、今まで読んだどんな小説よりも描写が濃い小説でした。
共感できるところもあれば、うーんと思う所もあり、最後50ページくらいは「あともう少し…」と思いながら読んでいました。私は言葉による場景の描写も大切だと思うのですが、どちらかと言うと「物語性」を重視する読者なので、正直にいうと途中で飽きて放り出しそうになりました…(でも最後まで読み切りました)
お料理の描写が細かく、読んでいるとバター醤油ご飯が食べたくなったり、ラーメンにバターを入れてみたくなったりします。ただ、肝心の物語はと言うと、記者である主人公が一人悶々と考える描写や、「あの人の行動はもしかしたらこういう理由じゃないだろうか」が様々なアングルで展開されていく形が続き、冗長だなと思ってしまったことは否めません。「推測」の後に「実はこうでした」というような種明かしがあるわけでもなく、梶井に出し抜かれる展開も唐突感がありました。あと主人公の親友の挙動も腑に落ちなかったです。
日本独特のジェンダー観やルッキズムに関する視点は非常に鋭く、日本独特の社会観を浮き彫りにしていると思います。こういう点が欧米の読者には新鮮だったのかなと。ただ、色々な要素を詰め込んで”ぐるぐる”させた割には、主人公が行きついた結論があっさりで、納得感があまりなかったです。親友の暴走も、不動産販売をしている被害者の娘の登場も、唐突だったし、彼女から家を買う主人公も無理やり感を感じました。婚活詐欺師の取材をする記者を、この話の主人公に据える意味をあまり感じさせなかったな…と。色々詰め込んだ話だなと思いました。
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