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お腹がすく、メモワール/Hマートで泣きながら

和書レビュー
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Hマートで泣きながら/ミシェル・ザウナー

ミシェル・ザウナー著「Hマートで泣きながら」がなかなかイイらしい』SNSで流れてきたそんなつぶやきを見たのがきっかけで、手に取りましたこちらの本。

著者は韓国系アメリカ人のミュージシャン。アメリカで成功を収めたジャパニーズブレックファーストのシンガーだそうです。その成功はこの本のメインとなる彼女の母親の死からインスパイアされた楽曲によるものだとか。数年前に原書の”Crinig in H Mart”が、洋書垢さんの間で話題に出たことがあったため、その存在自体は知っていたのですが、そもそもメモワールは普段あまり読まないので当時は食指が動きませんでした。

今回邦訳を手に取ってみて、「これは邦訳で読んで正解」と思いました。翻訳された方の腕が巧みで読みやすく、また本書の肝でもある韓国料理の名前がもちろん日本語で説明付きで書かれているので、日本人読者にも想像しやすい。これ英語で読んでいたら、名前から料理が想像できずに苦しんだろうなと思います。

内容は、舌の超えた母親と娘(著者)の回顧録(メモワール)です。とても仲の良い親娘の話かな?と思いきや、十代・二十代の間はむしろ相いれないところも多分にあった二人が、母親の癌闘病をきっかけに近づき、料理と味の記憶を頼りに母親の死を乗り越えようとするお話です。

病気と愛と死、その間の感情の揺れが精緻に描写されていて、第三者として読んでいる私も色々と考えさせられる内容でした。私個人の置かれている親娘関係とは隔たりがあったので、そこまでぐっと感情移入できなかったのですが、韓国人でもなくアメリカ人でもないというアイデンティティに悩む姿や、味の記憶を必死につなぎとめようとする著者の様子には、何か感じるものがありました。

兎に角、沢山の韓国料理が登場します。またその表現が上手い。これは翻訳者の腕なのかな、とにかくお腹がすきます。普段韓国料理をそれほど食べない私も、韓国でこれらの料理を食べてみたい、と思いました。韓国料理好きなら、きっとお腹が鳴ること間違いなしの一冊です。

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