読みながら心かき乱され、本を置いた後も色々考え、尾を引くこの本は、犯罪ルポルタージュという分類になるのだと思うが、むしろどんな物語よりも心を揺さぶる一冊だった。
この本は2018年に起こった、娘による母親殺害事件の記録だ。医学部に入ることを母親に強制され、9年もの浪人生活を送っていた娘が、母親を殺しバラバラにして埋めた事件といえば、多分、あの事件かと思い当たる人もいるのではないかと思う。
書籍は著者が刑務所にいる娘との面会・手紙でのやり取りなどを重ね、合作という形で作られた。事実と娘の手記が交じり合って構成されているが故に、読み手が感情移入しやすいのだろうと思う。
そう、”臨場感”があるのだ。
冒頭、遺棄された遺体が発見されるところから始まり、時計を巻き戻すように娘の物心ついた時分にさかのぼる。凄惨な描写はこの冒頭部分だけなので、むしろ苦手な人は読み飛ばしてもいいと思う。この本の肝は、怒ってしまった事件ではなく、そこに至る過程にあるといっても差し支えない。
娘の人生をなぞりながら、母が娘に過剰な期待を寄せるようになっていった過程をたどる。もちろん母はこの世にはいないので、母側の心情は推し量る術はない。あくまでも娘側の視点から見ることになるので、もしかしたらそこには母しか分からない何か苦しさがあったのかもしれない。母子二人だけという世界の狭さが、そして何かに対する不安が、家庭をどんどん歪なものにしていったのではないかと私は感じた。(父親は仕事の都合と夫婦仲で何かあったのか、別居という形をとっている)
読者は、まるで今、そこで母親に詰問されている娘の気持ちを体感するのだ。そして、物語はどんどん”その時”に向かって転がっていく。
娘は控訴審での陳述書をこのように結んでいる。
重すぎる一言だ。でもこの本を読めば、そう思ってしまう娘の気持ちが痛いほどわかる。子にとって親は世界。親が世界の枠を上手に緩める、飛び出す力を子が持つことで、子にとっての世界は外に外に広がっていく。犯した犯罪は重いが、母という呪縛から逃れたいと思った娘の気持ちを考えると、一方的に責めることはできない、そう思った。
もっと他の大人が手を差し伸べていれば、きっと結末はこうならなかっただろうと思う。一人の親として、期待で子を追い詰めることのないよう、この本を教訓にしていかなくてはいけないと感じた。
あまりこういう本を読まないという人にも、是非手に取って欲しい一冊。
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